「人はなぜ、心を病むのか」脳科学の視点から、うつ病を考察してみる
令和2年患者調査(厚生労働省)によると、心の病に罹患された方は、約500万人いらっしゃいます。この数は年々、増加傾向にあります。心の病に罹患する方の7割は、25歳以下の若年層の方とも言われています。心の病は多様な種類があり、その要因や症状は様々です。要因や症状は、脳科学と密接に関係しています。今日は、まだ原因解明されていない心の病を、脳科学の視点から考察してみたいと思います。
現在心の病は、脳機能の「シナプスに不具合」が生じることで生じると考えられています。他にも脳は、内分泌や免疫、腸内細菌、ストレス等の影響を受け、心の病が発症すると考えられています。昨今のような変化の激しい時代は、特にストレスが生じやすいと思います。誰もが多かれ少なかれ、ストレスを感じながら生活していると思います。
カナダの生理学者のセリエは、ストレス反応を3期に捉え、それぞれの生理反応を明らかにしました。特に2期に生じる糖質コルチコイドは、海馬を萎縮させる事が分かっています。うつ病に罹患された方は、海馬と前頭前野の一部(内側前頭前野)の体積が縮小しているとの報告もあります。脳の体積縮小は、細胞死以外に樹状突起の退縮やシナプスの減少により起こります。内側前頭前野は、偏桃体を制御する役割を担っています。内側前頭前野が萎縮し、理由もなく偏桃体が活性化すると、理由なく不安になったり、無気力になったりうつ様の行動が現れます。また、細胞死以外に樹状突起の退縮やシナプスの減少は、慢性炎症が関与しているのではないかと考える研究もあります。
慢性炎症は、一過性に治まるはずの炎症反応が完全に治まり切らずに弱い状態でだらだらと長引き、炎症反応にブレーキをかける機能も十分に効かなくなってしまう状態なので、自分では自覚しにくいと思います。脳内で起こる炎症は、主にミクログリアと呼ばれるグリア細胞の一種に生じます。脳内に異物が無いかどうかを、常に見張っています。脳は、血液脳関門と呼ばれるバリア機能があるため、異物が入らない様になっていますが、化学物質などの何かしらが入り込んで炎症を起こしているのかもしれません。うつ病の解明ができたら、ノーベル医学賞か生理学賞かが出ると思います。新たな発見を心待ちにしたいと思います。